ケルト模様について

アイルランド、あるいは英国のウェールズ、スコットランド、コーンウォール地方などケルト圏を 旅していると遺跡や十字架などに不思議な網目模様や渦巻き模様を目にすることと思われます。 これはケルト模様といってダブリン博物館に保管されている「ケルズの書」や「ダロウの書」 などでも有名です。
アイルランドに渡る以前の古代ケルト人は、今から3000年年近く前にヨーロッパ大陸中央部 (特にオーストリアのハルシュタットなどが有名)で鉄器文化を築き、ザルツブルグの南東の 湖畔で岩塩の鉱山を持ち、近隣諸国と交易していた北方の文化集団でしたが、文字を持たず、 記録はすべて口伝で伝承されたため、その全体像はいまだに明らかにされてはいません。 しかし、いたるところで発見された考古学的、美術的遺物が文字の代わりに雄弁にものを語り、 のちの研究に大いに影響を与えています。
その気の遠くなるほど複雑に絡み合う網目模様にはミクロ的宇宙さえ感じ、ずっと見ていると 眩暈さえ引き起こしてしまいそうになりますが、想像力豊かな古代ケルト人の目には世界がそう 映っていたからだそうです。

これらの装飾はビザンチン文化や、南欧の影響も受けず、独自性を持ち、北欧の方に 影響を与えたほどです。ケルトの古い書物では大きな頭文字を際立たせ、それはやがて 網模様、組格子模様へと発展していき、驚くほどの多様性と想像力を見せています。 また、蛇や鳥、犬、想像上の動物の手足や同体などもモチーフとなっていますが、 その動物の身体の絡まり具合といったらアクロバティックでさえあります。
20世紀初頭に「ケルズの書」のカラー復刻版が出版された時、アイルンランドの作家 ジェイムズ・ジョイスが「虫眼鏡」を持ち歩き、人々にケルト模様の精密さを 自慢げに見せて回ったという逸話がありますが、古代ケルト人は文字の代わりに 「人間の目では容易に見る事のできない隠された世界」を精密な文様で表現するという ことに情熱を傾けていたようです。
そのケルト模様は、19世紀末ヨーロッパで起こった世紀末芸術に巧みに取り入れられ、 イギリス世紀末芸術の担い手の一人でケルト文学の紹介に務めたオスカー・ワイルドや、 ケルトの中世文学の浪漫的世界を美術によって表現したウィリアム・モリスやバーン・ ジョーンズの仕事は、アール・ヌーヴォーにおけるケルト復興に刺激を与えました。 アール・ヌーヴォー美術で最も有名な画家、アルフォンス・ミュシャの作品は波打つ髪や 唐草模様の装飾を施しますが「ハムレット」ではケルトの動物組紐模様が描かれています(右)。
現在、このような網目模様や渦巻き模様、あるいは有名なケルト十字架はピアス、指輪、 ペンダント・トップなど、アクセサリーなどの格好のモチーフとなっています。 去年、アイルランド、英国に行ってケルト模様のアクセサリーを見た時、是非ともこれら の商品を日本の皆さんに紹介したいと思い、この事業を立ち上げるにいたりました。 ユニークな商材をお求めの店主様が少しでもケルトに興味を持っていただければ幸いです。





左:ケルズの書 右上:5世紀−12世紀 右下:11-10世紀

参考図書:「ケルト 装飾的思考」 鶴岡真弓