ライ
ライは英国海峡に面した美しい街である。
その生計を密輸によって立てていた海賊もどきの荒っぽい男達がしきっていたというが、今のライにはそのような面影は皆無である。
イギリス海峡沿いの町の中でも最も美しく、こじんまりとしたこの町は歴史がどこかで止まってしまったような赴きがあり、町全体が博物館と言っても過言ではない。急な石畳の坂道となっていて、両側には花を一杯に飾った小さな家が並んでいてまるでお伽話から抜け出て来たような雰囲気をたたえている。
イギリスでは田舎(カントリー)は「立派」「豊か」と同義語であり、この小さく美しい街にいるとロンドンなど都会の喧騒などどこか遠い世界の出来事のように思えてくるから不思議だ。もっとも、これは日本にも同様の事が言えるわけだが、田舎の人々の表情も穏やかでこういう時に取り残されたような街を歩いていると本当の豊かさとは何だろうと思わずにはいられない。
蜂蜜色の石づくりの家にも、路地裏の庭にも、石畳を構成している敷石の一つ一つに暮らして来た人々の愛情がこもっていて、不思議な安らぎを与えてくれる。一方で一種独特の風格さえ備わっているのだ。ヨーロッパでは時間は「積み重なる」と言われるが、確かにいたるところに歴史が時を越えて息づいていた。こういう町が英国の至る所で息づいているのは、あの自然保護団体ナショナル・トラストの存在を決して無視できない。この国の人間の街や村を愛する気持ちは半端ではなく、歴史に敬意を払うようになるのも頷けるというものである。
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